『わすれないから』

3年前からほそぼそと。そしてこの1年間、ずっととある幼児園でボランティア活動のようなものを続けてきた。
毎日そこに通い、先生のように子供と接し、父母という立場よりも年季の入った身近な姉貴分というかたちで子どもたちのそばにいた。


もうすぐその任も終わる。
あと1か月もしないうちに私もここを離れてあたらしい街に引っ越すことになる。
『はなれちゃうね』『そんな遠くに行くの?』『さみしくなるね』と同志たちからさんざん言われた。
そうだね、さみしいよねって私も笑う。
けど、たとえ私が引っ越さなくてもこの任が終われば新しい組織にのまれて連絡なんか取り合わなくなるだろう事はなんとなくお互いにわかっている。それでもそう言い合ってしまうのは社交辞令みたいなものだろうと思う。


もうすぐ卒園を控えた男の子たちが今日、詰所にぼんやりと座っていた私にこの歌を歌ってくれた。
卒園前の発表会で歌った歌だそうだ。
肩を組んで歌っていた少年たち。
『俺ら友達だからおおきくなってもおぼえてるんだ』といった男の子たちは3年前からずっと一緒だった。
学区が違うからこの少年たちは全員はなればなれで違う校に行くことを知ってる。
『ママ(私はそう呼ばれている)のことも忘れないから』と言われた。


3年前、はじめて彼らを見たときを思い出した。この子たちのうち一人はお母さんと離れたくなくて、ずっと庭でカバンをしょったまま泣いていた子だ。もう一人は少しハンディがある子で、笑ったりしゃべったりしなかった子だ。その子が忘れないと言ってくれた。


『なんで泣くの』って言われたから『君たちの歌がとても上手だから感動して泣いちゃったんだよ』と言った。


おとなになっても
♪なんどもけんかして なんどもなかなおり
 なんどもないたし なんどもわらったね
 おおきくなっても おぼえていたいな
 おおきくなっても おぼえているかな

 ときどきしかられて ときどきほめられて
 ときどきあくびして ときどきかがやいた
 おおきくなっても おぼえていたいな
 おおきくなっても おぼえているかな

 すこしづつ あしたがきょうにちかづいてる
 さよならしても きみのことわすれはしないから

 おおきくなっても おぼえていたいな
 おおきくなっても おぼえているかな♪


帰りづらくて、少し園庭のベンチにすわって園舎の屋根を見ていた。
3年前からずっと乗ったままのボール、剥げたままの校章、変わらない景色。
自分が卒園するわけではないのに、なんだかたまらないほど切なくなってしまった。