紅茶
海の近くの大きな町で彼を見送った。
飛行機に乗って、別の海の近くにある大きな都市に行くという。
新幹線で行けばいいのに、という私に、彼は紅茶を飲みながら
「たまには飛びたくなるんだ」
と、ちょっと不思議なことを言った。
私にはそれがよくわからない。
なぜあんな鉄の塊が空をとべるのか、とか怖くないのか、とか
聞いてみたいことはいっぱいあったけど、なんとなく「ふーん」で会話を切った。
帰りに輸入食料品の店で紅茶を買った。
彼が最後に飲んだ紅茶 あのすこししめった臭いが私はあまり好きではなかったけど
棚に並んだその瓶をなんとなく手に取った。
口直し用のレディグレイと甘そうなハーシーズのチョコレートもかごに入れ、レジに並ぶ。
そろそろ飛んだだろうか
清算を済ませながら、蛍光灯が明々と光る天井を少し見上げていた。